第二部 ウフィヌプリ (有珠山)
今から2万年ほど前のある日のことだ。8万年ぶりにキムントーの中島、
トーノシケヌプリで目を覚ましたキムンカラカムイは、身中にたまった、
あふれる力を爆発させようとしたが、すんでのところで思いとどまった。
「あぶないあぶない。トーカラカムイに、なまら怒られるとこだった・・・」
トーカラカムイが丹精を込めたこのピリカ(美しい)トーや、程良いヤ、
それにソーの美しいたたずまいに、トーカムイ※やソーカムイ※が上手く
このトーを治めていることを感じたからだったんだと。
そこで、キムンカラカムイはトーの南の場所に目をつけた。さて、どんな
山を造るか・・・と周りを見回したところ、北の方にそれまで見たことの無い、
美しく大きな山があるのが見えた。
「そうかあれが、モシリカラカムイが造ると言っていたマッカリ(ペツ)ヌプリ
だな」と思った。モシリカラカムイの分身だから、こういうときには話が早い
わけなのさ。
キムンカラカムイは、美しいマッカリ(ペツ)ヌプリを手本にして、キムントー
の南に新しいヌプリを造り始めたんだと。
5千年もの時をかけて何度も何度も噴火を繰り返し、マッカリ(ペツ)ヌプリ
に良く似たピリカシリ(美しい山)を造り、出来栄えに満足してトーカリヌプリ
と名をつけて、また、そこで長い休息に入ったのさ。
ところが7千年ばかり前のことだった。
北に、魔神ニッネカムイの住む山があったが、雷神の助けを借りた英雄
オタストシクルが六日六晩の戦いで手下の悪神のほとんどを退治した
んだと。しかし、ニッネカムイだけは黒い雲を吐き、雨を降らせながら、
山から谷、谷から森へと逃げ回り、雄阿寒に救いを求めた。雄阿寒は
ものも言わずに岩の拳骨をくれたので、ニッネカムイは泣き声で雌阿寒
にすがったのさ。情にもろい雌阿寒は、つい哀れに思ってかくまって
やったんだが、ある時、ゴロゴロと見回る雷神の目を盗んでニッネカムイ
は雲を被って逃げだした。そしてキムントーの南まできて、トーカリヌプリ
に逃げ込もうとしたときだ。追いかけてきた雷神の投げた光の槍が、山に
あたってしまったのさ。
そのときだ、気の毒なことに深い眠りから突然叩き起こされたキムンカラ
カムイは思わず怒りを暴発させて、自慢のトーカリヌプリの美しい山体を
すっかり崩壊させてしまったんだと・・・。
失敗したと思ったって後の祭りさ。どうしたって、もう元には戻せないもの。
しかたなく山の名前をウフィヌプリ(燃えている山:有珠山)と変えて、失意
のままで三度目の眠りについたんだと。
この時に発生した岩なだれで、ウス(入り江:有珠)の砂浜は、今の様に
ごつごつと岩だらけで複雑な海岸線になったんだと言うことだ。
次にキムンカラカムイが目覚めたのは、いまから350年ほど前のことだ。
このときはもうすっかり人間の世界になっていて、山の名前も、いつの間
にかウフィヌプリに近くの海岸の地名のウスが混ってしまって、人間たち
からは、ウスヌプリ(有珠山)とも呼ばれる様になっていたのさ。
もう、自由に山を造ることが難しくなったなと考えたキムンカラカムイは、
ウフィヌプリをその名の通り、元の燃える山に造りなおそうと考えたらしい
のさ。
それからは数十年ごとに噴火を繰り返しては、小有珠を造り、オガリ山を
造り、大有珠を造り、明治新山(四十三山)を造った時には、トーヤに温泉
を湧出させた。これが今の洞爺湖温泉と壮瞥温泉の始まりなんだと。
それからも、東麓に足掛け3年をかけて標高400mを超える昭和新山を造り、
有珠新山を造って、いまでもそれを続けているのは、皆も知っての通りだ。
と、一人のカムイは誇らしげに話した。
※トーカムイは洞爺湖グリ-ン、ソーカムイは壮瞥滝ブルーのこと。
ウフィヌプリ(有珠山=昭和新山=キムンカラカムイ)が、昭和新山レッド。 |